第3章 敵を知る

敵と上手に戦うには、敵を知る必要があります。パラベラムに於ける敵は女性に対する暴力です。女性に向けられる暴力の性質を見極めることでその抵抗方法もことなってきます。

女性運動家たちが女性の暴力反対を打ち出してから半世紀近くが経ち、数々の分析や調査が実施されたにもかかわらず、女性に対する暴力の本質があまり知られていないのが現状です。殆どの女性は夜誰もいない道を一人で歩くことが危険だと思っていますが、実は女性達が一番安全だと思っている場所で暴力は実施されるのです。それは、家、夫婦間、カップル間、知人なのです。

暴力とは何か?

愛と同じで、誰もが口にする言葉でありながら、その真の意味はあまり知られていません。暴力の定義を決めるのは社会です。そして現在の社会では身体的暴力だけが暴力として扱われているケースが多いのです。しかも、合法な暴力(例えば警察がデモ隊を制圧するために行使する攻撃で厳密には社会的に認められているため暴力とは呼ばない)と違法な暴力(一般市民が一般市民に行使する攻撃)まであります。同時に、長い間、家庭内暴力は問題視されていませんでした。家庭内レイプや子供へのレイプも当たり前だった時代はそう遠い昔の話ではありません。

精神的暴力(ハラスメント)が認められるのは更に後になってからです。従って、周りもなかなか真剣に取り組んでくれません。法律より人の固定観念の方が成長は遅いようです。1970年代の女性運動家達が傷にメスを入れ、女性に対する暴力が殆どの場合、顔見知りや家庭内で実施されていることを主張しました。彼女達は「暴力の感覚」という新しい観念を作ったのです。暴力とは被害者の意志に反した行いや痛みを伴う物、と言う新しい定義でした。こうして彼女達は、政治や知識人を動かしていきました。今日、日本を含む西側諸国の暴力の定義は次の内容となっています。

女性に向けられたあらゆるタイプの暴力、女性への偏見、身体的、性的、精神的苦痛、脅迫、自由を妨げられる全ての行いを暴力と定義しています。

暴力はどのように見えるか?

暴力が持つ無数の側面

暴力は幾つかの分類に分けられます。自己暴力(拒食症、自殺、自傷など)個人間暴力、集団暴力、組織的暴力。パラベラムではもちろん、個人間の暴力にフォーカスしていきます。他の暴力ももちろん問題ではありますが、これらに対抗するにはパラベラムは効果的ではありません。個人間暴力はいろいろなかたちで表れます。

精神的暴力
皮肉、嫌み、屈辱、脅迫、相手の表現・考え方・行動の自由を拘束する、孤立、軽蔑、信仰を罵る、宗教を強要する、等を精神的暴力と言います。被害者の自信や信頼を攻撃するために、暴力と認識されます。そして精神的攻撃の後遺症は身体的な物より根強いケースが見受けられます。
身体的暴力
押す、髪を引っ張る、物で殴る、平手打ちする、蹴る、殴る、やけど、噛みつく、首を絞める、武器で脅迫する、女性割礼、拷問などが身体的暴力として認識されています。また、食事を与えない、衛生管理を怠る、医療機関に通わせない、も身体的暴力に位置づけられます。
性的暴力
相手の同意のない全ての性行為を意味します。性的ジョーク、嫌らしい目つき、屈辱的な電話、望まないセックススタイル、ポルノを無理矢理見せる、望まない部位への愛撫、制約下にある性行為、姦通、苦痛を伴う性行為、処女確認行為、強制的な妊娠、強制的な堕胎、ピルの服用を禁じる、性感染症対策を拒否する、政略結婚、強制売春、そのほか人権を踏みにじる全ての性行為。性暴力とは性によって相手を支配することを意味します。
経済的暴力
加害者が被害者を金銭的に支配する状態を言います。例えば、仕事をすることを禁ずる、収入の管理をさせない、財産を共有しないなど。このタイプの暴力は老人に向けられることも多いのです。

恐らく、読者の方々は上記記載の暴力の幾つかを経験していると思います。一生傷として癒えない暴力もあれば、一時的な後遺症で治る暴力もあります。しかし、大した暴力ではないからと言ってそのままにしておいてはダメです。決して「これで済んで良かった」と思わないで下さい。そう思ってしまうと、自分を守ろうとする意志が弱まります。

インパクト別に暴力をリストアップすることも出来ます。

身体的暴力
痛み、病気、不能、傷、死をもたらす暴力
社会的暴力
人との繋がりを絶つ全ての暴力
精神的暴力
幸せ、セルフエスティーム、自己啓発を害する全ての暴力
知的暴力
能力の開発や自由な意見交換を害する全ての暴力
感情的暴力
被害者の感情を利用して外的プレッシャーから防衛できなくする暴力

暴力の代償

暴力の代償は計り知れないほど大きいです。個人に限らず、社会にとってもそうです。救急期間、医療、社会復帰訓練、生産性の低下、長期にわたる病気欠勤、警察の費用、裁判など。例えば、スペインのアンダルシアの人口は800万人ですが、年間家庭内暴力関連にかかる費用は23億5千7百万ユーロに上ると言われています。カナダでは家庭内暴力にかかっている年間費用は4億カナダドルだと言われています。

しかし、それよりも高い代償を払っているのはもちろん被害者であり、暴力を目撃した人です。暴力を受けた傷が癒えるには非常に長い時間が掛かり、乗り越える前に二重三重の暴力被害に遭う可能性もあるので、半永久的に続く場合もあります。

暴力の後遺症を5つに分けることが出来ます。

身体的後遺症
痣、内臓疾患、骨折、腫瘍、視力障害、生涯、継続的な痛み、体力の低下
性およびリプロダクティブ的後遺症
婦人科疾患、不妊症、性器異常、性行為感染症、望まない妊娠、流産、やむを得ない堕胎
精神・行動的後遺症
罪悪感、羞恥心、セルフエスティームの喪失、境界線を引けなくなる、不安感、鬱、パニック障害、妄想、睡眠障害、ストレス、アルコール依存
社会的後遺症
沈黙、孤立、罪悪感、貧困
死を伴う後遺症
性行為感染症による死、自殺、出産による死

このように、何も抵抗しないでいる事は、大変な結果を招きますので、必ず抵抗行動を取る必要があります。

女性が受ける暴力の実態

多くの調査結果によると、暴力には全体として以下の特徴があります。

  • 男性は多くの場合、身体的暴力を受けるが、性的暴力を受けにくい
  • 女性は知っている人間から屋内で暴力を受けることが最も多い
  • 暴力の加害者は多くの場合、男性である

以下に数字を記載します(あくまでも報告されている件数で、女性は恥じらいから通報をしないケースが多いことを考えると更に数は多いはずです)。

暴行

女性は顔見知りから暴力を振るわれることが最も多くなっています。海外の研究では、女性被害者の40%が友人・知人から、20%が近親者、7%が他の親類で、見知らぬ人間からの暴行は3分の1となっています。

一方、男性被害者の場合は、37%が友人・知人から、3%が近親者、4%が他の親類で、56%が見知らぬ他人となります。ただし、女性が見知らぬ相手からの暴力犯罪の被害者になる可能性は、年齢と共に増加します。

殺人

殺人は映画やドラマのような謎めいたものでは無く、友人間、夫婦間、知人間で怒りに駆り立てられた末に発生しています。そのため、殺人の26.5%が口論の末に起きたもので、男女ともに顔見知りから殺されることが多くなります。

しかし、顔見知りの内訳は男女でかなり異なります。女性の被害者の32%が夫または恋人によって殺されていますが、男性被害者が妻または恋人によって殺害されたのは3%に過ぎません。つまり、女性は夫や恋人によって殺されることが最も多いのです。ちなみに、男性が見知らぬ者から殺害される割合は、年間で女性の2倍になります。

殺人犯の82%が男性で、被害者も76%は男性です。殺人事件の約26〜38%で被害者の挑発があったことがわかっていますから、男性同士の口論がエスカレートして殺人に至る場合が多いことがわかります。

ストーキング

米国の調査では、女性の8%と男性の2%が人生のどこかでストーキングを受けた事があると報告した。これは、女性12人に1人、男性45人に1人が生涯の内にストーキングされたことがあると推定されます。

ストーカーの動機の多くは被害者を怖がらせ、支配したり、被害者と親密になることだとわかっています。ストーカーの87%は男性で、被害者の80%が女性です。ストーカーと被害者はほとんどの場合、顔見知りで、約半数が現在か元の結婚相手や同棲相手からストーキングを受けています。これらの女性の80%が、ストーカーと交際していた時、ストーカー被害を受けている時、その両方で身体的な暴力を受けています。ストーカー被害のほとんどは2年以内に終わっていますが、長引く場合もありますし、ストーカー被害が終わったあとも被害者はトラウマを負うことになります。

セクシュアルハラスメント

セクハラは職場でのいじめの一形態と言われています。「敵意的、侮辱的、敬意を欠く他の性的行動と同様に、繰り返し行われる、受け手が嫌がるあらゆる種類の性的行動」をセクハラと言います。セクハラには3つの種類があります。

ジェンダー・ハラスメント
女性への侮辱的・敵意的な態度を示すような、あからさまな言語的・身体的・象徴的行動
迷惑な性的注目
性的な雰囲気に満ちたコメントや接近
性的強制
性的な付き合いによって仕事上の報酬を与えるというほのめかし、または明白な申し出

女性は男性に比べてセクハラ被害に遭う割合がかなり高く、男性は女性よりセクハラ行動を取る傾向が有意に高くなっています。女性の2人に1人は就労期間中のある時点にセクシュアルハラスメントを体験すると推定されています。また、セクシュアルハラスメントは、男性優位の職場や、非専門的な職場環境で特に発生しやすいと言われています。

男性優位の発言や行動を大目に見る環境、男性の優位と堅固な力の階層が組み合わさった状況は、セクシュアルハラスメントの発生と維持をもたらすと思われます。

道場にもよると思いますが、武道・格闘技の道場などで、このような状況を見かけることが多いように感じますが、私の気のせいでしょうか?

ドメスティックバイオレンス

一般的には自宅は安全と思われています。しかし、暴行と殺人の項で説明しましたが、実際には女性はどこよりも家庭で、自分の親しい人から、虐待されて、殺されているのです。

ドメスティックバイオレンスの主な被害者は女性で、報告された近親者暴力の85%で被害者は女性であり、女性に対する全暴力の22%に昇っています。ドメスティックバイオレンスの被害者の約3分の2が身体的暴行を受けて、3分の1が脅迫や暴行未遂を受けています。

ドメスティックバイオレンスは、一回限りで終わることはまれで、繰り返し、継続的に、長期間にわたって生じる傾向があります。また、家庭内暴力には1984年に提唱された「Walkerのモデル」と呼ばれるサイクルがあり、以下のようなパターンによって繰り返し暴力は実施されています。

アメリカでは女性がホームレスになる原因の主たる原因はドメスティックバイオレンスであると言われています。

第一期・緊張感
加害者は被害者に自分の要求を満たしていないことを口頭で表現、続いて脅迫する。被害者は服従することでこの怒りを収めようとする。
第二期・爆発
緊張感が高まり、加害者の怒りが爆発する。
第三期・言い訳
爆発の後、加害者は落ち着きを取り戻し、被害者は恐怖から解放される。
第四期・ハネムーン期
加害者はパートナーが自分から去っていかないために、相手をいたわる。被害者は自分のパートナーが暴力男であることを忘れ、実はとても愛情深く、もう二度と暴力を振るわないだろうと思い込む。

この四段階の繰り返しによって家庭内暴力は起きています。

レイプ

レイプは「暗い夜道で見ず知らずから」という思い込みがあります。しかし、実際は異なります。警察の発表によると、確かに公然猥褻や強制猥褻は、屋外が多いのですが、レイプは屋内や乗り物内などがほとんどです。

そして、レイプは顔見知りの犯行が多いと言われています。米国で実施された成人に対する全国調査によると成人女性の被害は、24.4%は加害者が面識の無い他人、21.9%は加害者が夫か元夫、19.5%は加害者が彼か元彼、9.8%は加害者が親戚、14.6%は加害者が親戚以外の友人や近所の人、となっていて、面識のある人物からの被害が多いことがわかります。

日本においても、警視庁の統計によると、レイプ、強制猥褻のどちらでも、事件の30%以上が面識のある関係で発生しているとされています。これは、日本では米国よりも、顔見知りによるレイプが少ないという印象を受けるかもしれません。しかし、米国ではレイプの申告率が8〜21%と言われていますが、日本でのレイプの申告率は3〜5%であり、日本におけるレイプ全体の暗数は認知された件数の20倍と言われています。

レイプの通報が少ない理由は、被害者がレイプ被害にあった事を恥ずかしいと思う場合もありますが、実際のところは、レイプ犯の多くが面識の無い人物ではなく、親しい相手だからです。調査によると、強姦の被害に遭って加害者が見知らぬ相手だった場合は、半数の被害者が通報していますが、顔見知りの場合は、誰も通報していなかったそうです。被害者が通報しなかった理由として考えられているのは、加害者を憎む気持ちよりも庇う気持ちが強かったり、それ以降の加害者との関係性を重視したためです(田口ら, 2010)。ですから、日本においても、面識のある関係での性犯罪は、30%よりもずっと多いと考えられます。

暗数がもっと大きいと思われるのは、被害者が男性の場合です。米国では届け出のあったレイプ被害者の9%が男性でした。男性がレイプされた場合、強くPTSDの症状が出るといわれており、また、女性被害者のような支援態勢も整備されていないため、暗数はかなり高いと言われています。

デート・レイプ

16歳から24歳までの女性の3分の1以上が、少なくとも1回はデート中に事件に巻き込まれ、女子高生の15%がデート中にセックスを強要されたという調査結果があります。

これは、多くの場合、男性がデートに誘い、デート費用の大部分を支払い車に乗せてあげたので、その見返りとしてセックスする権利があると考えるため発生します。

デート・レイプは男性の部屋の中で一番多く発生し、次に女性の部屋で発生します。車の中や屋外ではほとんど発生しません。デート・レイプで使われる手口は、説得、アルコール、薬物で凶器などはつかわれません。また、殴打なども少ないのですが、レスリングのように力ずくで圧倒するのが一般的だと言われています。

レイプの計画性

米国の検察官の報告では、レイプで告訴された人の約4分の1は、犯行を前もって計画したことを認めています。しかし、犯行の計画性を認めることは被告に不利になりますので、計画性のあるレイプ事件の実際の数字は、検察官によって報告された数字よりも、すっと高いと考えられます。

また、研究によっては「3分の2以上が明らかにレイプを計画していた」とするものから、「71%のレイプに計画性がある」とするものもあります。これらの報告に合わせて、レイプは顔見知りが実行する場合が多いということを考え合わせると、レイプは多くの場合、顔見知りが計画的に犯行しているということが解ります。

攻撃の種類を識別する

暴力にも種類があります。暴力の種類によって対応の仕方が変わってきますので、見極め方を紹介します。

屈辱による攻撃

誰もが日常的に屈辱を受けています。屈辱によって起こる攻撃は、自己の屈辱が問題になるのではなく、その屈辱感を本人が管理・処理できなくなるという点です。屈辱は怒り身体的緊張感を生みます。精神と肉体にある怒りのエネルギーは自然に消える物ではなく、どこかではき出さないと自己破壊へと繋がります。破壊的な例として、薬物依存になる、自分を痛めつける、があげられます。それが外部に向けられるのが屈辱による攻撃(敵対的攻撃)です。

このタイプの攻撃の目的は、相手を苦しめることなので、殺人やレイプなどのほとんどは屈辱による攻撃で発生しています。

こんな例を想像してみて下さい。月曜日の朝、目を覚ますのが遅くなってしまった。夢見も悪く、気分も良くありません。慌てていたので足の小指を家具の角にぶつけてしまい、さらに家中を探しても靴下が見つからない。大急ぎでブルーベリージャムを付けたトーストをくわえながら家を飛び出す、その反動でお気に入りのTシャツにジャムを垂らしてします。地下鉄に乗るとギューギューに混んでいて、暑苦しい。何とか5分の遅刻だけで会社に着いたと思ったら、同僚に遅刻を指摘される。同僚は指摘しない方が良かったですね、お気の毒に。彼女は同僚を怒鳴りつけてしまう。あなたに関係の無い事でしょ、放っておいてよ、私の上司のつもりなの……。

この例では屈辱による攻撃が具体的に表現されていて、とてもわかりやすいですね。誰にでも起こりうる状況です。そして、正直に言えば皆多かれ少なかれ、このような態度を取ったことがあると思います。爆発のような攻撃ですね、普通なら絶対取らないであろう行動を取ってしまう。叫んだり、侮辱したり、お皿を割ったり。身体の力のコントロールを無くしてしまう意味に置いて、屈辱の攻撃は危険と言えるでしょう。そういう場合、被害者はとにかく、攻撃者をなだめることに専念すべきです。少しでも相手に反論すると、攻撃がエスカレートして危険な状態になりますので、反論は避けて下さい。屈辱による攻撃を見極めるのは簡単です。

コップの水を溢れさせる最後の一滴
屈辱による攻撃は殆どの場合攻撃者の解釈によって発生します。その場の出来事に対して攻撃をするのではなく、蓄積された屈辱が爆発します。
顔色が変わる
攻撃者は非常に感情的になる。顔が赤くなるか顔が青白くなる、血管が浮き出る、息が荒くなるなどの表情が表れます。この場合、怒りは深く、深刻な状態です。怒りが収まると、攻撃者自身、何故あんなに怒ったのか解らなくなる場合があります。
驚き
屈辱をあらわにせず突然爆発する。事前に攻撃を察知するのが難しい。非常に大人しい人手も突然爆発することはあります。
頭がおかしい
加害者は完全に自分のコントロールを無くす。これは加害者が状況に対して自分は無力だと感じたときにおこる物です。 やり過ぎ:加害者は相手を非難する。君はいつもそうだ…、誰も僕を解ってくれない…、自己中心的な物の考え方をするタイプの加害者に多い行動です。

では、屈辱のタイプを見極めたらどうしたらいいか?まずは冷静に対応して下さい。屈辱の攻撃を無視するのは状況を悪い方へエスカレートさせますので止めましょう。境界線を引くと加害者に更なる不満を与え、屈辱感が増す恐れがあるので、この場合は使えません。従って一番確実な方法は前の章でも紹介した「火に水をかける」ストラテジーです。とりあえず、加害者の言っていることが正しいとなだめ、こちらが真剣に相手の悩みを聞いてあげていると思わせて下さい。言葉で表現するなら「本当にあなたが正しいです、困った問題ですね本当に」という具合に言って下さい。

このページは護身術のページであるのにもかかわらず、黙って相手の言いなりになるとはどういうことなの?と皆さんはお思いかもしれませんが屈辱による攻撃では選択肢はあまりありません。自分の身体の安全を確保したいか?危険を冒してまでも自分の言い分を通したいか?のいずれかです。加害者が自分をコントロールできなくなっているのなら、こちらで相手をコントロールするのが一番効果的です。一旦爆発すると加害者は落ち着きを取り戻したかのように見えますが、アドレナリン値が下がっていない可能性もあります。従って第二の爆発の怖れもあるのでとにかく時間をおくようにして下さい。爆発の度合いにもよりますが、平常心を取り戻すのに数時間から数日かかる場合があります。親しい人であれば、日を改めて、本人の行動の問題を指摘してあげると良いでしょう。

道具としての攻撃

何かを得るために攻撃的になる。加害者は攻撃を道具(だから道具としての攻撃となずけられています)にして自分の望むことを得ようとします。例えば、マインドコントロール、ハラスメント、でっち上げがそれに当たります。攻撃の目的は様々で、物質的(金を出せと脅す)である場合とそうでない場合があります。例えば、自分の主張が正しいと認めさせるために、本題をそらし、相手の弱点を攻撃して従わせる、がそのパターンです。道具的攻撃は日常的に多く存在し、マインドコントロールやプレッシャーで加害者は何かを得ようとします。あなた自身にも覚えがあるのではないでしょうか?道具としての攻撃と屈辱による攻撃は明らかに違います。

加害者は自覚を持って行動をしています:目的を持った攻撃であり、突然加害者に襲ってくる衝動ではありません。被害者の感情を揺さぶって従わせるタイプの攻撃です。

演技
被害者を従わせるためなら加害者はあらゆる「ふり」をします。自分の損害になることは決してしないスタイルの攻撃です。
既視感
繰り返し被害者を攻撃する。被害者をより早く自分に服従させようとする。フェミニストの間ではこれを「被害者の訓練」と名付けています。被害者がこの役割を受け入れると、加害者の攻撃は成功してしまいます。
したい事をする、さもないと
目的の為に脅迫を実行に移すタイプの攻撃。
悪評
加害者は自分の悪評を被害者に言って被害者を脅します。

では被害者はどのように行動すればよいか?道具的攻撃を無視しても状況は良くなりません。なぜなら、加害者は目的を達成出来ないからです。加害者に同調するのも良くありません。攻撃を肯定する事になり、加害者は欲しい物を手に入れられると判断します。火に水ストラテジーは大変危険です。。次の攻撃のモチベーションを加害者に与えるからです。対立なら道具としての攻撃を収束できます。しかし何年も同じような攻撃を繰り返してきた相手であればあるほど、完全に攻撃を収束させるのは難しい可能性があるので、その場合は関係を断ち切るのが一番安全です。

力関係による攻撃

グループ(男と女、白色人種と有色人種、国民と移民、健常者と身体障害者、同性愛者と異性愛者)や一対一(社員と上司、生徒と先生など)のように数多くの力関係が存在します。攻撃は力のある方が相手より自分に価値があると思ったときに起こります。自分の方が偉いと言う事を表現するために攻撃が始まります。目的は力関係の維持やその関係を強調するためです。攻撃者は被害者を支配し、コントロールしたいのです。全ての差別用語、性差別、人種差別、姦通、職場でのセクシュアルハラスメント、家庭内暴力が異なる力関係による攻撃の類に属します。

手段としては、精神的攻撃であったり、性的攻撃であったり、経済的、スピリチュアルな攻撃であったりします。攻撃者は攻撃理由となるステレオタイプ的思想があり、例えば、被害者が自分を威嚇した、被害者がそうし向けた、被害者はそういう目にあって当然だ等、そのステレオタイプの性質を被害者が受け入れる(攻撃の理由は自分にある)と状況はエスカレートし、攻撃が激しくなります。被害者が攻撃を暴力と認めない限り、いかんともしようがありません。この手の攻撃は長い時間永続するため、大変重い後遺症を伴います。データに一番上がりにくいタイプの攻撃でもあります。なぜなら、被害者は自分が社会や周りの人から十分に守られていないと思ってしまうからです。性的攻撃の警察への通報件数は10件中1件とされています。次の方法で異なる力関係による攻撃を見分けられます。

彼女がそれを望んだ
加害者は自分に責任がないと思っている。被害者に責任をなすりつける。
皆同じだ
加害者は被害者に対して先入観を持っている。ステレオタイプ、決めつけ、先入観(某グループに属しているから某だ、等)。これらの先入観を変えるのは大変難しいです。
エスカレート
自分を優位な立場にするために攻撃を使う人、勇気のない人である場合が多いです。いきなり被害者を攻撃するのはリスクが伴うので、まず被害者の境界線を試し、被害者がどの程度自分に抵抗してくるかを見極めます。だからこそ、自分の境界線を可能な限り早く相手に示す必要があるのです。被害者は大いにして、境界線レベルを下げてしまう傾向があるので最初からハッキリと示しておく必要があります。
冗談だよ
この手の攻撃を本気にしない人がいます。被害者は巧妙に自分の攻撃をユーモアを持って隠そうとします。時として周りがそれに同調してしまう場合があり、被害者は一段と自分を責めてしまいます。
被害者ぶる
自分の目的が達成されないと、ハラスメントだ、差別だと叫ぶタイプを言います。具体例を挙げると、職場でグループ行動に同調せず自分勝手に行動している人が、皆から冷たくされて仲間に入れて貰えない事をハラスメントだと強調する。

精神病理による攻撃

多くの人が暴力を精神病だと思い込んでいます。しかし分析によると、全く逆の結果が出ています。暴力は日常的に存在し、その数も想像以上に多い。そしてその殆どが「正常者」による物ですが、だからといって暴力を肯定する事は出来ません。中にはもちろん精神的病理が理由で攻撃をする人もいます。その場合攻撃は全く計画性が無く、攻撃もまちまちです。例えば、精神的攻撃、性的身体的攻撃。攻撃の理由としては以下があげられます。

精神病疾患
精神病、統合失調症、境界性人格障害。
精神的な問題
甲状腺障害、脳腫瘍や脳の一部の損傷
薬物
覚醒剤、コカイン、幻覚剤。

薬物の長期使用は人格を変える事もあり、状況判断やパラノイアになる恐れがあります。アルコールもまた、攻撃性を強調する物の一つで、感情を高ぶらせるので攻撃性が増します。上記疾患を抱えた人は屈辱や何かを得たいが為に攻撃する場合もあります。例えば、中毒者が薬物を買うためのお金欲しさに人を攻撃するなどが一番良い例です。また、被害者が加害者の病歴を知らない場合、この手の攻撃を見極める唯一の手段は被害者自身が論理的に考えたとき、攻撃の理由を把握出来ない、加害者は別の惑星から来た人のようで、別の次元で物事を判断し、被害者の論理でとうてい理解出来ないというケースの場合、精神病理障害による攻撃だと判断できます。

攻撃の理由が分からないため、それを鎮める事も出来ません。異なる次元で物事を判断する人に対し、境界線を引くのは大変危険です。なぜなら、攻撃者の反応が予測不可能だからです。従って、精神病理障害による攻撃を受けた場合とにかく身の安全を確保する事だけを考えて下さい。人混みに入る、加害者を無視する。

結論として、自分の怒りをコントロールできない人の攻撃を受けたら、火に水をかけるストラテジーを実施し、攻撃の理由と加害者の行動が理解不可能であれば、とにかくその場から逃げて下さい。そのほかの全ての攻撃に対しては境界線を引いて下さい。え?どういう風に境界線を引くかですか?それは次の章で説明していきます。

加害者は何故そんなことをするのか?

これは生徒からいつも受ける質問です。すると私は必ずこう答えます「そんなことどうでも良いことですよ」。何故こう答えるかというと、相手を理解しようとするのは女性の癖だからです。攻撃者を理解しようとすれば、護身術のキャパシティーが落ちます。進化的な適応、攻撃者のトラウマ、ホルモン値、受けたマッチョな教育を知る必要は全くありません。自分が攻撃されていると感じた時点で抵抗に入ればよいのです。何故攻撃してくるかは関係ありません攻撃は攻撃でしかないのです。

[第4章 精神の護身術]

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