第8章 身を守ることは自己表現すること

戦争は終わったが、本当の戦いはこれから始まるのだ。(アフガニスタンの諺)

攻撃を受けた後に

あなたが生き延びてくれて、私は本当に嬉しいです。生きていてくれて、ありがとう。あなたは見事に死の淵から抜け出し生還者(サバイバー)になったのです。状態はさておき、生き延びられたことが一番大切です。サバイバーになった後の行動を記載します。

まずは自分の安全の確保をして下さい。荷物を持って逃げると攻撃者がまた襲ってくるかもしれないので何も持たないで下さい。とにかく、その場から人のいるところへ逃げて下さい。

ドメスティック・バイオレンスの場合、繰り返し起こる攻撃である可能性が高いので、子供に警察への電話の仕方や近所の人に物音が聞こえたら、警察を呼んで貰うようにお願いしておいて下さい。行く場所が無いなら、専門機関やシェルターを調べておいて下さい。

攻撃を受けた後は絶対に一人でいないで下さい。信頼出来る人の側に行くか、来て貰うかして、話を聞いて貰って下さい。受けた攻撃を警察に届け出るか否かは、あなた以外に決められる人はいません。

護身術のプログラムはどうやって選ぶの?

このページを読んで護身術を習いたい気分になりましたでしょうか?そうであれば、素晴らしいことです!まずは、選ぶときの基準として次のポイントが上げられます。

プログラムを確認する

恐怖を感じるようなイメージや文章が使われているか?例えば、暗い夜道を歩く女性、攻撃を受ける女性など。この手の視覚イメージを使う護身術は肯定できません。その理由として、まず護身術は怖い物であると思い込んでしまう点と、顔見知りによる暴力や家庭内暴力について一切触れないと思われますし、口頭による攻撃やハラスメントについても触れないでしょう。他人による暴力を受けたときの身体的抵抗の練習に限定されますので、もっとポジティブなイメージを醸し出す授業を選んで下さい。

パンフレットに記載されている約束事を見て下さい。もう恐怖とはさようなら?完全に安全で自分に自信が持てる?コンバットマシーンになれる?とても非現実的な内容ですのでもっと、境界線の示し方や暴力を事前に予防する方法、口頭や態度で身を守る方法の記載のある物を選んで下さい。

授業でどのタイプの暴力について学習するかも聞いて下さい。女性が一般的に受ける暴力と言われたら、一般的に受ける暴力とは何かを質問して下さい。夜道でバッグの引ったくりにあった場合の抵抗と言われたら、護身術の知識が全く無いインストラクターだと思って下さい。顔見知りによる攻撃、ハラスメント、精神的暴力などを扱う授業は肯定できます。

初心者の授業で、武器を持った攻撃に対する抵抗を教える授業であれば、初心者にはレベルが高すぎます。護身術の授業は平均12〜20時間で終了します。それ以上短いと教える内容は未熟になってしまいますし、それ以上長いと武道や格闘技のようになってしまいます。

素振りばかり繰り返す
実際に物体を打つ練習をしないと力を出す感覚が学べません。素振りも大切ですがミットやサンドバックを打つことが必要です。
多すぎるランク
武道、格闘技、護身術の中には、段や級、多数の帯(ベルト)が多く設定されているものがあります。こうしたランク分けは管理上必要なものもありますが、多くの場合は道場が収入を得る手段となっています。多く過ぎるランク分けは習うのにお金が掛かりすぎるだけでなく、結果的に不必要に大量の技術を習うことになり、ランク分けの意味は疑わしいものです。
道着に着替える
柔道着や空手着といった武道のような格好をする必要はありません。攻撃者はあなたがお色直しをするのを待ってくれません。また、道着に着替える武道は、どうしても、それを前提としたテクニックが多くなる傾向があります。
複雑なテクニック
複雑で華麗なテクニックは習得に時間が掛かるだけでなく、プレッシャーの下では絶対に発揮できません。
現実離れした宣伝文句
「一撃必殺」や「一度習えば一生使える」といったテクニックは存在しません。こうした宣伝文句は生徒を確保したいだけのものです。
秘伝の技
何年も修行すれば門外不出の秘伝の技を必ず習えると、暗に示したり宣伝したりする武道がありますが、経済的理由で生徒を確保しようとしているだけです。本当に口伝で秘伝を伝える武道は絶対にそれを宣伝しません。
過度の精神性
武士道精神など哲学についての長い講義は、性暴力から身を守る役には立ちません。また、礼儀作法や儀式に多くの時間を割く武道は、社会的な上下関係に服従する精神が養われますが、性暴力から身を守るためには、そうした上下関係に立ち向かう精神を養う必要があるため逆効果です。
整然として形式張っている
練習風景を見学したときに生徒達が整然と動作のセットを繰り返すだけでしたら避けた方が良いでしょう。自分の限界に挑戦する訓練は少々だらしなく見えるものです。

護身術とは自己表現である

暴力が存在する関係には、必ずといっていいほど、加害者が被害者への恐れを中和するための一方的な存在への理解があります。それは「君は可愛い女性だよ」という甘い言葉かもしれません、それとも「お前は殴られて当然の存在だ」かもしれません、それはどちらも決めつけです。護身術とは加害者に「私はあなたが思っているようなモノでは無い」と、抵抗を通して自己表現することなのです。

あとがき(【初版】開発終了に寄せて)

パラベラム【初版】 “Anti-Sexual Assault System” は2017年3月の特定非営利法人の解散にともない開発を終了いたしました。第1章の「まえがき」にも書きましたが、2017年11月より、パラベラム【第2版】“Anti Sexual Assault/Interpersonal Violence System” への改訂作業を開始しています。

パラベラム【初版】は、主に従来のフェミニズム理論に沿って書かれています。しかし、筆者は性暴力の原因について調査を進めるなかで、こうした考え方に疑問を持つようになり、2016年6月頃には性犯罪の撲滅には、進化心理学が重要だと考えるようになりました。そうした観点から【第2版】は改訂が進められております。

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