代表理事(第2代)
森奈津子
作家。
1966年東京生まれ。立教大学法学部法学科卒。
1991年に少女小説でデビュー。
現在では、性愛をテーマに、現代物、SF、ホラー等を発表。
一般社団法人 日本推理作家協会会員。
就任のご挨拶
2017年、私は、すでに解散したあるNPO法人には十年にわたって蓄積してきた女性護身術の研究成果があったと知りました。
それをこのまま埋もれさせてしまうのはあまりにも惜しいと考え、以来、そのNPOの旧メンバーの方々とやりとりを重ねてまいりました。
そして、このたび、その研究成果を引き継ぐパラベラム代表の任を拝命しました。
私自身はまったくの手探りからのスタートですが、わずかなりとも社会のお役に立てればと願っております。
ところで、代表就任のご挨拶としては、いささか蛇足的なお話を、以下でさせてください。
「夜道を一人で歩いているとき、背後で男性が同じ方向に歩いているのに気づいた」
「エレベーターで、知らない男性と二人きりになった」
「上司や知人の男性と、密室で二人きりの状況になった」
女性ならば、それだけで、脅威や恐怖を感じることもあります。
しかし、それは、女性に責任があるわけでないのはもちろん、男性側にも害意がないかぎりはなんの罪もありません。
原因は、肉体的な力の不均衡。あるいは、社会における地位・立場の不均衡です。
ならば、せめて、両者の肉体的な力の不均衡を、均衡に近づける——それが、女性護身術の目標の一つのでもあります。
また、暴力・性暴力を防ぐすべ、立ち向かうすべ、被害者を支えるすべも、女性護身術パラベラムのカリキュラムには含まれます。
誤解していただきたくないのは、これは決して、女性にのみ暴力・性暴力回避の責任を負わせるものではないということです。当然のことながら、暴力は加害者側に百%の責任があります。
しかし、暴力から身を守る技術を知るということは、結果的に日常での心の負担を軽くします。弱者をより自由にするという利点が生まれます。
パラベラムの思想的基盤は、フェミニズムにあります。
フェミニズムとは、人権を基礎とする理論です。そして、また、人権はすべての人が有するものです。
よって、弱者たる女性だけでなく、強者たる男性、そして、男女という性別二元論では定義づけが不可能な性の方々の人権も尊重する理論です。
パラベラムは「女性護身術」を名乗ってはいますが、特定の性を蔑視し、攻撃することを容認しません。その点は、ここで明言させていただきたく思います。
(在任期間:2018年12月1日 – 2022年3月27日)
代表理事(初代)
匿名
匿名のパラベラム創設者。
退任のご挨拶
はじめまして、パラベラム初代代表理事の匿名者です。このたび、私の任期が満了し、2007年の設立からおよそ11年間にわたって務めてまいりました代表理事の役職を退任する運びとなりました。これまで支えてくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます。
パラベラムは2007年、国産初の女性護身術を開発するという目標を掲げて設立されました。その実現を支えたのは「牧羊犬機関」という特別なチームの存在です。このチームには、医師、弁護士、自衛官、警察官、心理士といった専門家が参加しており、それぞれの専門分野の知識と経験を活かして活動を支えてくれました。牧羊犬機関の理念である「天墜つるとも正義を成就せしめよ」(Fiat justitia ruat caelum)を共有し、私たちは暴力や不正に直面するすべての人々を守るために尽力してきました。
この理念を体現するために、アメリカ、カナダ、スイスの女性護身術団体での訓練、自衛隊の格闘術や詠春拳の技術を取り入れ、日本独自の護身術を形にする研究と訓練を重ねました。また、進化心理学や戦略学、犯罪心理学といった学術的な知見を護身術教育に導入し、革新的なアプローチを実現しました。これらの取り組みを通じて、パラベラムは単なる技術の提供を超え、人々の自己信頼や自尊心を高め、暴力の予防に寄与する存在となることを目指してきました。
私が代表理事として活動する中で「匿名」を選んだ理由は、この護身術の開発と団体の活動が、私一人の功績として語られるべきものではないと考えたからです。パラベラムの成り立ちは、牧羊犬機関のメンバー、一人ひとりの知識や技術、努力、そして情熱が結集した成果であり、その功績は個人に帰属するものではありません。また、私自身が名前を明かしてしまうことで、団体や護身術そのものが「個人のブランド」として見られるようになることを危惧しました。そのような状況は、牧羊犬機関の理念である「天墜つるとも正義を成就せしめよ」に反するものであると考えています。私たちが目指しているのは、特定の個人の功績を称えることではなく、正義を追求し、すべての人々が平等に安全を享受できる社会を実現することです。
私が代表理事を退く今、パラベラムの理念と活動は次世代の新しいリーダーシップのもとでさらに成長し、多くの人々を支えるものとして発展していくことでしょう。牧羊犬機関の精神である「天墜つるとも正義を成就せしめよ」という信念が、これからもパラベラムを支える道標であり続けることを心から願っています。私自身も一人の支援者として、これからも団体の活動を見守り、必要に応じて支援を続けていきたいと考えています。
最後になりますが、11年間という長きにわたり、パラベラムの理念に共感し、応援してくださった皆さまに改めて深く感謝申し上げます。どうぞこれからもパラベラムの歩みに温かいご支援をお願い申し上げます。ありがとうございました。
(在任期間:2007年1月1日 – 2018年12月1日)