綜合武術格闘術

綜合武術格闘術とは太平洋戦争末期、東京高等体育学校の武道科柔道の主任教授だった塩谷宗雄氏が、本土決戦に備えて、1941年から1943年の間に開発した、近接格闘術です。

綜合武術格闘術は、単に「格闘術」と呼ばれたり、「塩谷流格闘術」と呼ばれていたようです。

綜合武術格闘術の特徴

綜合武術格闘術の目的は、短期間の訓練で、一般国民の戦闘力を向上させる事でした。そのため、柔道、柔術、相撲、空手、拳闘、剣道、銃剣道の中から、実戦に最も実用的価値が大きく、短期間で容易に身に着ける事が出来る技を選んで構成されていました。

綜合武術格闘術は、陸軍、文部省および厚生省の後援を得て、学校、国民義勇隊、陸軍、陸軍戸山学校、陸軍士官学校、などで実演および指導が実施されました。

綜合武術格闘術では、徒手や武器による格闘技術以外にも、体当たり、歩いたり走ったりする能力(国民義勇隊は兵站業務を担うため長距離の行軍能力も期待されていた)、物を投げる能力(国民義勇隊に支給される最上の武器は手榴弾だと考えられていた)を重視していました。また、脚力と投力の訓練では、日常生活の中で歩いたり走ったりする機会を増やすこと、紙やボロ布などで鞠を作って日頃から投げる練習をする、など日常生活の中での鍛錬を説いていました。

他にも、綜合武術格闘術では、日用品を武器として使用する事も推奨していました。この日用品も、勤労者は一定の時間を取って、格闘術の訓練をする暇が無いとして「職業と武力の直結」を訴え、職業で使用して使い慣れた道具(スコップ、斧や鎌など)を武器として使用する事を推奨していました。

訓練の特徴

綜合武術格闘術は、短期間で習得出来る事を重視していたため、勤労者であれば朝礼や終礼時に10分づつ、といった短時間の訓練を想定していました。そのため、6時間で一通りの講習を実施出来るように考えられていました。

綜合武術格闘術では、遭遇戦を想定しており、敵に突進し勢いを付けて攻撃する事を、最重視していました。そのため、試合形式の訓練を実施する場合には、双方相手に突進して技をかける事が求められており、空手や剣道のように間合いを計りながら戦うことを禁じていました。試合時間も1分と大変短く設定されています。

また、一対一、一対複数、素手対武器や複数対複数などの、様々な状況を想定した訓練を行っていました。他にも、実戦を意識し、疲労した状態で戦闘に突入する事を考慮していたため、試合形式の練習の前には、ある程度の距離の障害コースを走った後に、訓練することを推奨していました。

訓練を実施する場所は、実戦を想定して、野外で行うのを原則としており、整地から不整地に、そして自然の山野へと、戦場に近い環境で訓練する事を推奨していました。

綜合武術格闘術の技術

綜合武術格闘術では、日本人よりも体格の良い、米英人との白兵戦を想定していたため、技の選考には自分よりも体格の良い敵と戦う事が考慮されていました。

また、綜合武術格闘術では、指導する技の内容に男女での違いは無く、子供や女性の訓練では運動強度が多少軽減してありました。塩谷先生は綜合武術格闘術を考案するにあたり、力の弱い子供や女性でも有用な技を選考していたと思われます。

基本動作

綜合武術格闘術の構えは、概ね空手に類似しており、受け身は柔道のそれと類似しています。

打撃技

綜合武術格闘術の突きと蹴りは、空手の直突きと前蹴りに類似した技を、敵に突進しつつ行います。また、膝蹴りと、踏み付けも指導されていました。

体当と投技

綜合武術格闘術では相撲の押倒、突倒、捻倒と、柔道の腰技と足技が採用されています。突進してからの押倒と突倒に、敵が押し返して抵抗する所に、捻倒と腰技で投げる連絡技を重視しています。また、足技は武器格闘との連携を重視しています。

軍刀術と銃剣術

綜合武術格闘術の武器術は、突進しながらの軍刀による、正面斬撃、斜斬撃、正面刺突、後は突進しての銃剣による直突を採用しています。

対武器

綜合武術格闘術が想定する敵の武器は、主に米英兵が装備する小銃に着剣された銃剣で、銃剣に対して、徒手、短剣(短棒)、軍刀、銃剣で対応する技が選定されていました。

綜合武術格闘術では、武器を装備した敵に、徒手または短剣(短棒)で対応する場合、武器で攻撃して来る敵に対して入身を重視します。また、入身の際に、土や砂を目潰しに使う事を推奨しています。

防御技

綜合武術格闘術の教本には、打撃や投げなどに対する受けなどの防御技は、一切紹介されていません。これは、綜合武術格闘術が遭遇戦を想定していたため、敵に出会った場合は速やかに敵へと突進し先制攻撃を加えるため、防御技は必要無い、つまり、攻撃こそ最大の防御、と考えられていたのだろうと推測します。また、防御技の指導を省くことにより、訓練時間の大幅な短縮が期待出来ます。

連行法

綜合武術格闘術では敵を捕らえた場合に連行するための技も定められています。まず、敵の両手を合掌させ、自分の手を敵の両肘の上から差し入れて、敵の両小指を握り、逆関節を決めて連行します。

拘束法

綜合武術格闘術では、拘束した敵を縄で縛る方法も定められており、基本的には後ろ手に縛るように定められていました。

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