まえがき
「白い羽根運動」は、パラベラムの前身であるNPO法人が2015年から2017年まで実施していた、女性に対する暴力に反対する男性のキャンペーンです。
本キャンペーンでは、男性から女性に対する暴力に焦点を当てていますが、昨今の犯罪心理学の研究から、親密なパートナー間の攻撃行動(身体的攻撃だけでなく、言語的攻撃や心理的攻撃を含む)の発生頻度には男女差が無いことが解ってきています。(越智・桐生,2017)
ですので、今後は、男女問わずパートナーを攻撃しない、社会環境の実現が求められて行くと考えます。
白い羽運動とは?
キャンペーンに参加する方法は簡単で、男性が、いまから紹介する「白い羽根ネガティブ・リスト」を日常生活の中で守るだけだ。だから、このキャンペーンに参加するためには、集会に出席する必要も、募金をする必要も無い。日常生活での実践以外には、何か特別な事をする必要の無い単純な運動だ。
また、このページは、男性に働きかけることを目的としているため、読者を男性と想定しているが、男女を逆にしても活用できるようになっている。
白い羽根ネガティブ・リスト
では、早速、「白い羽根ネガティブ・リスト」を見ていこう。このリストは、女性への暴力を減らすために、今すぐに男性が実行できる、女性と接する際に避けるべき行動を紹介したものとなる。具体的には以下の3つだけだ。
また、このリストの根拠については、リストの後に記載している「なぜ白い羽根なのか?」や「男女は違う世界に生きている」で紹介するので、ぜひ読んでみて欲しい。
では、これから、リストに挙げた3つの行動を具体的に見て行きたいと思う。
1.意思の確認が出来ないことはしない
人の鞄を勝手に触ってはいけないことは誰でも知っていると思う。(例えとして適切ではないが)それと同じで、人の身体に勝手に触ってはいけない。どうしても触れる必要がある時は触っていいか確認しなければならない。そして「止めて」と言われたら相手の意志を尊重して止めなければならない。
もちろん、夫婦や恋人同士などで、お互いに意思の確認をしなくても、ある程度は体を触ることが、予め許可されているような関係もある。それでも、もし「止めて」と言われたら相手の意思を尊重して止めなければならない。
触りたかったから触る、というのは相手の身体的な境界線への侵害になる。あなたの身体があなたの物なのと同じで、相手の身体は相手の物なのだ。だから、あなたが好き勝手に扱ってよりものでは無い。
このように、身体に触れるには意思の確認が不可欠なのだから、当然、意思の確認が出来ない時は触ってはならない。つまり、病気、怪我、飲酒などによって、女性に意識がなかったり、正常な判断や意思決定を出来ない状態の時には、女性の利益になる場合(危険な場所から移動させる、蘇生措置などをする)を除いて、女性に触れてはならない。
2.拒否の言葉を無視しない
「止めて」や「嫌」には誤解はない。「止めて」は「止めて」なのだ。また、「止めて」には一切の理由は必要ない。女性に「止めて」欲しい理由を説明させるのは、女性に言い訳を言わせてしまうだけで、女性の立場を弱くするための攻撃になる。誰も自分の境界線を、いちいち他人に説明して理由付けする必要無い。
あなたにも女性にも、それぞれの境界線があり、それを見せる、それだけでよいのだ。だから、あなたは女性の「止めて」を受け入れなければならない。「止めて」を受け入れなかったり、しつこく理由を聞くなどして拘るとしたら、女性はあなたに恐怖を感じ、危険な男性だと判断するだろう。
3.拒絶されても怒らない
日本よりも女性が強いと言われている欧米社会に於いてでさえ、女性は男性から話しかけられたら、丁寧に優しく答えるべきだと期待されている。そのため、女性が、ハッキリと明快な意思表示を示すと、どこの社会でも評判が悪い。ハッキリ意思表示をする女性を、冷たい女、わがままな女、あるいはその両方だと考えている者は、男性だけではなく女性の中にも存在している。
だが、女性が話しかけてくる男すべてに対して、感じよく対応しなければならない理由など全く無い。そもそも、女性が性暴力から身を守るためには、望まぬ男に話しかけられたり、頼んでもいないのに援助を申し出られたら、キッパリと拒絶する必要がある。なぜなら、性暴力加害者による被害者選びは、そうした話しかけや援助の申し出などを切っ掛けにして行われるからだ。
だから、あなたが一人でいる女性に、話しかけたり何か手助けを申し出た時に、キッパリと断られても腹を立てないで欲しい。なぜなら、彼女からみると、あなたが只の親切な男性なのか、鬱陶しいナンパなのか、痴漢や強姦魔なのか区別がつかないからだ。強姦魔はだいたい怪しい男ではなく、あなたと同じ普通の外見の男性なのだから。
もちろん、男性の中には、親しげに話しかけることで女性をリラックスさせようと考える親切な者もいるかもしれない。だが、全く知らない男性が、女性をリラックスさせる目的の為だけに話しかけてくるのなら、構わないで居てくれた方が良いと思う女性の方が多いのだ。特に女性が人気の無い所などで無防備な状況にあるときに親しげに接近するのは不適切な行動だ。
こうした性暴力に対する予防措置という合理的な理由があるのだから、あなたが女性から、警戒されたり、キッパリとした冷たい態度で援助の申し出を断られても怒らないで欲しい。何も女性はあなたを犯罪者だと確信しているのではない。ただルーティンで予防措置をとっているだけなのだから。
さあ、実行しよう!
ここまでに紹介した「意思の確認が出来ないことはしない」「拒否の言葉を無視しない」「拒絶されても怒らない」の3つが、白い羽根ネガティブ・リストの全てだ。「え?これだけなの?」と読者が感じたのなら、それは当然のことだ。リストの内容はどれも常識的なことだからだ。なぜなら暴力を防ぐために難しい理屈ではなく、常識が必要なだけだからだ。
しかし、この当たり前の常識を持っていない男性が、世の中には案外多い。なぜなら、この普通の常識を女性に対して働かせない状況が不当であり、それを是正する義務が男性側にある、という事実を認めていない男性が多いのだ。もっとも、あなたは、そういった輩ではないはずだ。
そして、あなたの友人男性が白い羽根ネガティブ・リストに反する行動を取っていたら注意して止めさせて欲しい。性暴力の加害者は、自分の身の回りの人に暴力を咎められると暴力の実行が難しくなるのだ。
また、ネガティブ・リストの内容は、男女が逆になっても適応可能なものだ。あなたのパートナーの女性が、あなたの意思を確認しなかったり、拒否を無視したり、怒りであなたをコントロールしようとすることは許されることではない。そういう兆候があるのなら、しっかり話し合ってもらいたい。
リストを読んだ男性の中には、「これ、本当に根拠があって言ってるの?」と思っている者もいると思う。以下に「白い羽根運動」の根拠になった考え方を紹介したいと思う。
なぜ白い羽根なのか?
まず、なぜ「白い羽根」なのだろうか。これは、欧米では白い羽根が「臆病者の証」と言われているところに由来している。では、なぜ臆病者の証を、キャンペーンのシンボルに採用したのか?それを説明する前に知っておいて欲しいことがある。それは、男女には攻撃性に性差があることだ。
女性に比べて男性は圧倒的に暴力的であることが統計的に証明されている。例を挙げると、米国の調査では暴力犯罪の全逮捕者の83%を男性が占めている。また、殺人事件で逮捕されるのは90%が男性で10%が女性となっており、そして、殺人の女性被害者は32%が夫または恋人によって殺害された一方で、男性の殺人被害者は3%が妻または恋人によって殺害されたに過ぎなかった(バートル・バートル,2010)。このように、犯罪については男女平等では無く、男性が攻撃性をコントロールすれば多くの犯罪は減少させられる可能性があるのだ。
男性の攻撃性の高さの理由には様々な原因があり、その原因は完全には解明されていないが、心理学ではその理由の一つとして、男性的な性役割の社会化があると言われている。ほとんどの文化圏で男性は男性的な性役割の社会化を受けるため「男らしさパーソナリティー・パターン」を構成すると言われている。その内容は以下の通りである。
- 男らしさパーソナリティー・パターン
- 女性に対する冷淡な性的態度
- 暴力を男らしいと知覚すること
- 危険を刺激的だとする見解
このような過剰に男らしい男性は、こうした過度の男性的なパターンを是認しない男性よりも、かなり攻撃行動を示すと言われている(クラーエ,2005)。そのため、多少「男らしくない」と思われたり「臆病者」と言われても、自らの攻撃性を抑制することが女性への暴力を減らすことに繋がるのだ。だから、女性への暴力を否定する運動の象徴として、私達は「白い羽根」を選んだ。
また、殺人事件の内で26〜38%は被害者側の挑発が原因となっていて、口論からエスカレートして殺人に発展したことがわかっている(バートル・バートル,2010)。そのため、男性が自らの攻撃性を抑制する(臆病者のように振る舞う)ことは、女性への暴力を防ぐだけでなく、男性自身が暴力事件に巻き込まれる確率も下げることに繋がる。
白い羽根
「白い羽根運動」の象徴として「白い羽根」をデザイナーの河野邦彦氏に依頼し用意した。このキャンペーンに賛同する男性は、ぜひロゴやアイコンを掲示して賛同する意思を示して欲しい。そして、あなたの知人や友人に、このキャンペーンを紹介して参加を呼びかけて欲しい。
男女は違う世界に生きている
あなたは、最近、許可していない相手から体を触れられたり、跡を付けられたり、襲われそうになったり、といった、怖い目に遭ったことがあるだろうか? 標準的な男性だと、ここ数年間はそんな目には遭ったことが無い、と答えるだろう。もっと言うと、恋人や妻から暴力を振るわれた経験がある、という男性は極めて少ないだろう。しかし、女性に同じ質問をすると、全く違った答えが返ってくる。ほとんどの女性が、最近、人によっては毎日のように、怖い目に遭っていると答えるはずだ。「俺が聞いたら違ったけど?」それは、あなたが女性から、被害体験を話すには適さない男性だと思われているからだ。
特に、都市で生活する女性にとっては、毎日が警戒の連続だ。男性は電車に載るときに痴漢を警戒したりはしないし、人気の無い場所でレイプされることを恐れたりしない、部屋のインターホンが鳴った時に緊張もしない。他にも男性はパーティーで自分の飲み物に何か入れられはしないかと警戒したりもしないし、妻や恋人から殴られるかもしれないと恐怖を感じたりもしない。しかし、多くの女性が、男性が何気なく日常でこなしている、こういった行動の全てを、警戒心をもって行っているのだ。
多くの男性は、こうした女性達の用心深さと被害の実態を理解していない。そのため、女性が痴漢や強姦など様々な性犯罪の被害に遭ったときに「油断してるから悪いんだよ」などと言いって被害者の落ち度を探すか「考えすぎじゃないの?」と被害自体を信じようとしないかのどちらかだ。しかし、女性達は、実際には毎日警戒して生活を送っているのだ。それにも関わらず「もっと警戒しないと!」と責められることがわかっているから、女性達は怖い目に遭っても、男性には相談しなくなるのだ。
更には男性に、女性の防犯対策について質問した場合「人気の無い場所で見知らぬ男に襲われる」ことに注意するよう、忠告するだろう。つまり男性の多くは、女性は人気の無い公共の場所では「見知らぬ男」を警戒すべきだと考えているのだ。しかし、奇妙なことに、このような忠告をする当の男性が、人気の無い場所で女性から警戒されると「俺が襲うと思ったのか!失礼だ!」と怒り出すのだ。
女性は男性の忠告通りに見知らぬ男に警戒したのだから「防犯意識の高い女性だ」と賞賛するのなら理解できる。しかし、見知らぬ男に警戒しろと忠告しておいて、自分が女性から警戒されたら怒り出すのは「俺以外の男を警戒しろ!」と言っていることになる。これは矛盾している。あなたが危険な男でないと、見知らぬ女性がどうして知っているというのだろうか?
そもそも実際には、強姦は人気の無い場所で見知らぬ男から、ではなく、自宅か加害者宅で行われる事が多く、女性のレイプ被害者の65.8%が顔見知りからレイプされているのだ(バートル・バートル, 2010)。つまり女性は、自分を襲うかもしれない相手から防犯について説教され、十分に警戒しているのに警戒が足りないと馬鹿にされ、言われたとおりに警戒したら警戒し過ぎと怒られるのだ。
このように、男女では同じ空間で生活していても、実際には全く違った現実の中で暮らしているのだ。そのため、男性は自分たちの行動が、どれぐらい女性を怖がらせ脅かしているのかを理解出来ていない。
男性は女性に「もっと警戒しないと」とか「あれをやってはいけない、これを避けなければならない」などと、アドバイスをする前に、まずは、自分が女性に(例え悪気はなくとも)脅威を与えてしまう行動を慎み、また、自分以外の男性が女性に脅威を与える行動を取っているようならば、諫めるようにしようではないか。
女性への暴力を許さない社会を作って行く、もっとも簡単なことは、何かを「する」事よりも、余計な事(もっと言えば有害な事)を「しない」方が有益なのだ。どうだろう?とても簡単だと感じたのでは?では、この後に、白い羽根運動に参加する上で知っておいて欲しい知識を紹介したい。
境界線を尊重する
「境界線」とは自分にとって許せる範囲と、そうでない範囲の事を言う。これには個人差があり、育った環境、文化的要素、人生経験、性格、その時の気分などが影響する。人間関係の基本は境界線を示すところから始まる。相手の好むこと好まないことを尊重することは、人間関係にとって基本となるからだ。
そして、境界線は「止めて」や「嫌」などの拒否の言葉で示される。だから、人間関係においては拒否の言葉を尊重することは、相手の人間性を尊重する上で大切な要素なのだ。
もしかすると、女性から境界線を示されると、あなたは嫌な感じがするかもしれないし、女性と対立する事になるかもしれない。それはあなたが女性に抱いていたイメージや信じていた事を考え直さなければならないからだ。これは悪いことではない。なぜなら、あなたが相手をより理解し、お互いの理解を深めるチャンスにもなるのだ。
男女の言葉と態度の違い
男女問わず本心を隠そうとするときに人は笑顔を浮かべるものだ。そして、女性は嫌だと思っている時や、「止めて」と言う時にも、笑顔を浮かべる場合がある。それは「嫌よ嫌よも好きのうち」ではなく、本当は嫌だけど男性を怒らせて、暴力を振るわれたくないと思っているから笑顔を浮かべているのだ。
また、女性は嫌な事があっても、他人に対して、親切で礼儀正しく接しなければならない、と社会から求められる場合が多く、また女性の中にもそう考えている人が多いため、女性は言いたい事をハッキリと言えない場合が多い。そのため、以下に紹介するような男女での食い違いが発生することになる。
女性が言いたい事 | 女性が言葉にする事 | 男性が理解する事 |
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近くに寄り過ぎ、下がって! | なんだか近くに寄りすぎているような感じがするのだけれど | 本当に近すぎるかは確かではないし近くにいても良いし、そのままで良い |
いちいち、物を片付けなさいと言わせないで! | ダーリン、居間にまた汚い靴下が置いてあったんだけれど、あなたの? | 私があなたの私物を管理しているので、あなたの物に間違いないか確認したいだけ。動かなくて良いわよ! |
ちょっと、皆と同じように並びなさい! | すみません、私が先だったと思うのですが? | 申し訳ありません、恐らく私がいけないのでしょう、それにあなたが割り込んだ証拠もないので…どう思いますか? |
あなたと飲みに行く?死んでも嫌よ! | 本当に申し訳ないのですが、今夜は先約が入っています。 | 本当に一杯一緒に飲みたかったのだけれど、残念ながら今夜は無理。次は2つ返事でお受けするわ。 |
(車内)スピード落として!怖い! | ちょっとスピード出し過ぎじゃない?ゆっくり走るのは嫌? | 個人的意見ではスピードが出すぎていると思うけれど、私の勘違いかも。大した問題ではないので、そのまま走り続けても良いわ。 |
上に紹介したような食い違いがあるため、男性は女性の言葉や態度は理解不能だ、と感じるのだ。もちろん、女性もハッキリと自分の意思を話すようにすれば良いのだが、実際に次に紹介するレイプ神話を信じているような男性は、ハッキリ言う女性を「生意気だ」と攻撃するだろうし、そういった自立した女性を「懲らしめる」ことを目的としてレイプするレイピストの存在も明らかになっている。そのため、現実的に女性は自分の身を守るため、なかなかハッキリとはものを言えないのだ。
レイプ神話
「神話」とは根拠も無いのに絶対的なものとして信じられている事柄をさす。これから紹介する「レイプ神話」とは、レイプの責任を被害者に転嫁したり、加害者の正当性を主張してその責任を否定し合理化しようとする誤った信念や態度のことだ。
レイプ神話にはレイプを矮小化して被害者の心的外傷の程度を小さく推定すると共に、レイプを正当化し加害者の責任を小さく認知する働きがある。具体的には、被害者が軽率であるとか、素行の良くない女性である、といった偏見を生み出し、被害女性の人権を傷付け、被害女性の精神的回復の妨げとなる(田口ら,2010)。では、レイプ神話とは、どんな信念や態度なのかを以下に紹介する。
- 性的欲求不満
- 男性は女性に比べてはるかに強くまた抑えがたい性的欲求を持っているから、レイプはやむを得ないこともある。
- 衝動行為
- レイプは一時の激情によるものだから、厳しくとがめるべきではない。
- 女性の性的挑発
- 女性の性的魅力に圧倒されてレイプに走ったのだから、女性の性的挑発も原因の一部である。
- 暴力的性の容認
- 女性は男性から暴力的に扱われることで性的満足を得るものである。
- 女性の被強姦願望
- 女性は無意識のうちに、強姦されることを願望している。
- 女性の隙
- 行動や服装に乱れたところがあり、自らレイプされる危険を作り出している女性は被害に遭っても仕方がない。
- 捏造
- レイプ事件の中には、女性が都合の悪いことを隠したり、男性に恨みを晴らすために捏造したものが多い。
こうしたレイプ神話の働きは、加害者と被害者の関係が、見知らぬ他人である場合よりも、顔見知りである場合に大きい。実際に、このようなレイプ神話によって被害者の責任を強調することは、レイピストの罪を軽減させるために、弁護側の法廷戦術としてよく使われてきたのだ。そのため、レイプ神話が一般化してしまうと、結果的に、人々がレイピストに対して寛容になり、レイプが行われやすい社会的雰囲気を作り出すことに繋がっていくことになる。(田口ら,2010)
また、性的攻撃性の高い男性(レイプする可能性が高い男性)は、こうしたレイプ神話に対する受容性が高く、被害者の責任を追及する傾向が高いこともわかっている。(バートル・バートル, 2010)
女性への暴力を許さない社会実現のためには、レイプ神話を許さないことが重要である。また、もし、あなたの中に、このようなレイプ神話があるのなら考えを改めて欲しい。
この後に、もう一歩踏み込んだ「被害者を救援する」活動も紹介したい。
被害者を救援する
過度の「男らしさパーソナリティー・パターン」は性的攻撃に繋がるので厳に戒めて欲しいが、女性への暴力を防ぐために、あなたの中にある、制御された男らしさや勇敢さを、発揮して有益に活用して欲しいと考えている。
そのため「白い羽根運動」に賛同する男性は、何か異変を感じたり、襲われている人を見かけた場合に、可能であれば救援の手を差し伸べて欲しい。
もちろん、男性にとっても暴力は恐ろしいものなので、自分の安全を確保することが鉄則だ。自分の安全を確保しつつ、襲われている人の助けになることは沢山あるのだ。自分の身を守りつつ他の人を救援するためには3つのポイントがある。
- 距離を保つ
- 目を離さない
- 圧力を加え続ける
3つのポイントを守りながら被害者を救援してみよう。このポイントを守っていれば女性にも救援は可能だ。
まずは通報する
襲われている人を見かけた場合は、すぐに警察に通報して、加害者には近寄らないようにする。
このとき、可能であれば、深く大きく深呼吸をして、アドレナリンで上昇した心拍数を落ち着けて欲しい。そうすれば、通報もスムーズに行うことが出来る。
被害者が危険な状況であっても、被害者と加害者の間に直接割って入ることは、あなたまで被害者になってしまう可能性があるので、絶対に避けて欲しい。
警察が到着するまでには、時間がかかる。距離を取っていても、警察の到着を待つ間に被害者を救援することは可能だ。
そして救援する
暴力犯罪だけで無く、全ての犯罪の加害者は、見られること、声をかけられること、大きな音、ライトなどの光に照らされることを嫌う。この犯罪者の習性を利用して、被害者を救援しよう。
状況によって、どのように支援するかは違ってくるが、加害者に目撃者が存在すること、警察に通報されたこと、などを理解させれば、加害者は逃げ出す。
加害者が救援しようとするあなたに襲いかかってこないとも限らない。だから救援活動中は、十分に距離を取るか、障害物を自分と加害者の間に入れるようにしよう。
また、距離を測って加害者との間合いを保つ為と、視線で加害者に圧力を加え続ける意味で、加害者から決して目を離しては成らない。その時に、加害者の特徴を覚えておくようにして欲しい。
もし、あなたの身の安全が確保できない状況ならば、警察官が到着するまで、加害者に見つからないように隠れて、状況を監視することも選択肢に入れるべきだ。
便利な道具
被害者を救援するためには武器は必要ない。武器はあなた自身の犯罪を許さない意志だからだ。とは言っても、あると便利なグッズというものは確かにある。それらを紹介しよう。
- ライト
- 遠くから加害者を照らしたり、警察や救急隊に場所を知らせる場合に役立つ。また、強力なライトならば自分が襲われた場合に目くらましの道具にもなる。
- ホイッスル
- ホイッスルやブザーは、自分の防犯や防災のためにも役立つが、これらが発する大きな音は被害者の救援にも多いに役立つ。男性の場合はブザーよりもホイッスルの方が良いだろう。
ライトもホイッスルも小型で強力なものが販売されている。そういったものをキーホルダーに取り付けておけば、被害者の救援や防犯だけでなく、地震などの自然災害でも役に立つはずだ。
被害者救援の為の訓練
日常生活の中で、被害者を救援するための訓練を行おう。備えあれば憂いなしだ。
心を落ち着ける訓練
人間は恐怖や怒りを感じるとアドレナリンが分泌して心拍数が上昇し、上手く警察に通報出来なかったり、思わず加害者と被害者の間に割って入ってしまったりする。
そういった事を防ぐため、日頃から怒りを感じたりしたら、ゆっくり大きな深呼吸で心拍数を減らすようにしよう。これは繰り返すことで、条件付けされて、すぐに心拍数を抑えることが出来るようになる。
また、男性が暴力事件に巻き込まれるのは、被害者自身による挑発行為も大きな原因になる。怒りをコントロールすれば、あなた自身が暴力事件に巻き込まれる確率を下げることにも繋がる。
電話をかける訓練
犯罪を目撃してアドレナリンが分泌されて心拍数が上昇した状態だと、いつもなら何でも無いような動作が出来なくなったりする。武者震いなどはそうした現象だ。
警察に通報する場合に関連する具体的な障害としては、近くの物が見えにくくなり携帯電話の画面が確認できなくなったり、指が上手く動かなくて他のキーを押してしまう、という事がアドレナリンの影響で起こる可能性がある。
そのため、平時に自分の携帯電話で110番に通報する手順を確認し、電源を落とすかフライトモードにするなどして発信出来ないようにしてから、実際に通報するまでの手順を練習しておくと良い。
可能ならば、短縮ダイヤルに110番や119番を入れておくのも良い方法だ(短縮ダイヤルの操作を練習すること)。
場所を説明する訓練
いま自分が居る場所を正確に、警察や消防に通報する場合をシミュレーションして練習してみると良いだろう。具体的には初めて行った場所で「この場所を通報する場合は何と言ったらよいだろう?」と考えてみると良い。
救援方法を検討する訓練
犯罪のニュースを見たり聞いたりしたら、自分がそこに居合わせたのなら、どのような方法で自分を守りつつ被害者を救援するだろうか?と考えて見るのも良い訓練になるだろう。
私のためでも、あなたのためでもなく、私たちのために
ここまで読んできて、どのような印象を持たれただろうか?白い羽根運動は男性が白い羽根ネガティブ・リストを守って、日常生活を送るだけで達成される運動だ。今すぐにでも始められて、何も難しいことはない。ぜひ、挑戦してみて欲しい。
また、誤解の無いように言っておくが、白い羽根ネガティブ・リストは、男性が女性におもねることを求めてはいない。もし、あなたが女性から暴力を受けた場合にも、白い羽根ネガティブ・リストは助けになるはずだ。なぜなら、白い羽根ネガティブ・リストは女性だけの権利では無く、普遍的な人間の権利を表しているため、リスト本文の男女を逆の立場にして読み替えれば、概ね使えるようになっている。
白い羽根ネガティブ・リストは、男女(もちろん他の性的指向の方々も)がお互いの違いを認め合い、尊重し合い、対等のパートナーとして生きて行くためのものだ。そのため、白い羽根運動のモットーは「私のためでも、あなたのためでもなく、私たちのために」となっているのだ。