第5章 感情の護身術

感情の護身術の妨げになるもの

どんなに素晴らしい技を身につけていても、攻撃を受けたときに感情的になってしまったら何の役にも立ちません。泣いたり、怒りを爆発させたり、硬直したりしては攻撃を終息させることは出来ません。逆効果になる場合があります。では攻撃をされると自分の身体の中で何が起きるのか?感情は身体がくれる情報です。身体は新しいシチュエーションに生理学的に反応します。変化に順応するために、内部でコミュニケーションを取ります。それが感情です。その時、神経が身体のバランスを保とうとします。攻撃を受けると2種類の感情が発せられます。

恐怖と怒りです。恐怖は立ちくらみやパニックとして表れ、身体の外側に集中力が注がれます。恐怖は警報装置のような役割を果たしますが、パニックは硬直を引き起こします。怒りは苛立ち、癇癪などで表現されます。不本意や不同意なことに対し身体は反応します。固定観念とは逆に怒りは私達の味方です。何年も我慢したあげく、怒り爆発することで聡明さを取り戻す人も沢山います。

恐怖と怒りはアドレナリンによって引き起こされ、一般的にはストレスホルモンの名で知られています。アドレナリン値の上昇で肺が膨張し、血液中の酸素は増え、それは筋肉類に集中します。平常時よりも7倍の力が付くと言われています。脳の反応は早くなり、視野が広がり、痛みを感じにくくします。怪我をしたときは出血量が減り、皮膚表面の血液が減少します。人間の身体とは本当に良くできています。ところが一般的に感情というと、ヒステリー類に当てはめられ、女性特有の物のように言われますが、その社会的固定観念が女性の暴力への抵抗を制限してしまっています。感情は神経が身体にもたらす反応で自然のプロセスの1つです。では、その感情に自分がどう対応するか考えて行きましょう。

自分の感覚を疑っている

今まで、様々なタイプの攻撃を受けてきた女性と会ってきました。その度毎に彼女達は口を揃えて、攻撃が始まる前に、何かがおかしいと感じていたそうですが、その感覚を最後まで信じ切ることが出来ずにいたそうです。それはつまり、私達が本能ではなく理性を優先するように教育されているからです。

こうあるべき、という一般論からかけ離れた事実を私達はゆっくりとしか受け入れず「通常」と違うことが発生すると、ありとあらゆる口実を見つけてはそれを受け入れようとしません。

例えば、同僚が普通以上に頻繁にあなたのワーキングルームを訪れ、おかしな目つきであなたを見ています。あなたは感覚ではそれを不快と感じ、その行為を良しとしていません。ところが頭では次のように考えてしまいます。考えすぎだわ、彼はわざと嫌がらせのつもりでそうしているんじゃないわ、私のワーキングルームを同僚が訪ねてきて何がおかしいの?しかも、ここは職場だから、変な事が起こりうるわけがないわ。そしてあなたは結局同僚に何も注意をせず、次にすれ違いざまに同僚があなたに触れたら、それを偶然と理由付ける。そして、ある夜残業をしていると、突然同僚があなたに襲いかかってくるが、あなたは驚きのあまり全く行動できない。

自分の感覚を疑うと言う事は、攻撃者を自分より信じてしまうのと同じことです。私の考えすぎ、彼に悪気はない、大した問題ではない、今日は私が過敏に反応しすぎている、不快になる必要は無い、私が間違っている、偶然だわ、等。

この自問自答に覚えのある読者も多いのではないでしょうか?自信のなさが女性特有の本能を損なわさせ、攻撃者にとって都合の良い言い訳や口実を探してしまっているのです。頭で、アーでもない、コーでもないと考えたからと行って、攻撃者が自然に消えるはずもないのです。そして、攻撃者が知人であるとき、硬直状態が一番強くなります。脳はその状態を認めたくない、だから凍り付いてしまうというパターンになります。

逆に感覚には理屈は通用しません。感覚の役割は、自分自身の主張とバランスの維持です。理屈や論理を批判しているのではありません!哲学、クロスワード、本を書く、何かを開発するには理屈や論理は必要不可欠ですが、サバイバルとなると感覚が一番頼りになります。感覚は嘘をつきません。怖いと感じるんだから怖い、イライラするからイライラする、それだけで行動をする理由として十分なり立つのです。

このページは細かい心理学のページではなく、護身術のページですが断言します。不快に感じたその瞬間、あなたの境界線は越えられています。間違いなく、必ず超えられています。不愉快な理由はどうでも良いことです。不快だから不快であり、理由は二の次です。境界線は自分にしか分からないものであり、感覚でその範囲を確認するわけで、相手の行動の意図はどうであろうと関係無いのです。

恐怖と不安を混同している

恐怖は危険や見知らぬ人に対して感じる物。不安は具体的な理由無く内に忍び寄る恐怖。不安を感じてしまうと、それに捕らわれてしまい、全く行動できなくなります。日常生活の中でインプットされたイメージにとらわれてしまうのもその理由の一つです。例えば、テレビのドラマで攻撃に遭う場所は、決まって地下駐車場、人気のない道、森の中。映画では抵抗しても無駄なシーンや、抵抗をして攻撃をエスカレートさせるシーンが流れています。このイメージ戦略で私達は地下駐車場、人気のない道、森が危険だと洗脳されていますが、現実とは全くかけ離れています。殆どの暴力は顔見知りによる物で自宅で実施されるのに、誰もそれを明確に教えてくれないのです。では、恐怖と不安をどのように見分けるのでしょうか?

例えば、夜の11時、あなたはホームで地下鉄を待っていて何か不快な気分になっています。あなた以外に誰もホームにいなければあなたは攻撃を受けることはありません。従って、この場合あなたが感じているのは不安です。その状況を改善するする方法は今後、夜遅く地下鉄に乗らない、意外にありません。逆に、ホームで地下鉄を待っていると、突然足音があなたにめがけて忍び寄る、するとあなたの脈が速くなる、それが恐怖です。この場合は具体的な行動を取ることが出来ます。背中を壁に付ける、深く息を吸って落ち着く、武器か武器の替わりになる物を用意する。

全てを自己責任にしたがる

教育により理想的な女性は、家族の面倒を見て、お隣の老人の介護もし、住んでいる地区の野良猫の面倒も見る…。求められたものを与えるが、要求はしない、それが理想の女性!ほとんどの女性が人の為にどれだけ自分を犠牲に出来るかに時間をかけています。理解は出来ます、なぜなら、誰かを幸せにしたら、された人の中で自分の存在が大きくなり、理想の女性像と重なるからです。何故女性はエゴイストや物欲主義のレッテルを貼られるのをそんなに嫌がるのでしょうか?罪悪感が原因です。こうあるべき事柄がしかるべき形で行われないと罪悪感が芽生えるのです。状況をありのまま恥じることなく認めることが大事です。

女性は攻撃されないためには、主張をしない方が良いという教育を受けているので、状況を認めるのは特に難しいと思います。ですが、罪悪感のウイルスを退治するには社会の固定観念の中で出来上がった理想の女性像を追い払いましょう。さらに罪悪感によって、事態の結末を自分の責任と考えてしまうのです。例えば、男性が女性に地下鉄で痴漢をしたら、それは女性のお尻が可愛すぎるから、スカートが短すぎるから、父親が娘に猥褻行為をしたらそれは娘が誘惑したから、妻が夫から家庭内暴力を受けていたら、夫にヤキモチを焼かせるような振る舞いをしたからで、夫と別れないのだから、その状態に妻は満足している。暴力の責任が被害者にあると、女性は真に受けているのです。

しかし、大理石の壁面を持つ銀行に強盗が入っても誰も大理石の壁面が強盗を誘発したとはいわないですよね、アラームが作動するのが遅かったから狙われたと誰も言いませんよね。銀行が狙われたのは銀行だから。同じく女性は女性だから、レズビアンだから、老婆だから、売春婦だから攻撃を受けているのです。しかし、私達はアイデンティティを選んだわけではないのだから攻撃を受ける理由が無く、罪悪感を感じる必要も無いのです。この複雑な罪悪感念は社会の仕組みの産物であり、女性は攻撃される物、その責任も女性にあるという図式によって形成されています。そして女性がどんなに受け身になったとしても、それ以上を社会は女性に求めるでしょう、終わりなき受け身体制なのです。問題はその罪悪感が女性を傷つけ、行動を抑えてしまう点です。そして、無力感と罪悪感こそがストレスの一番大きな要因です。

自分の怒りにおびえる

怒りへのおびえは、自己コントロールの損失への恐れを意味します。社会的に女性に認められていない反応であり、ポジティブなロールモデルがないから怒りにおびえるのです。社会的に女性に認められている怒りの表現方法は、「涙」か「悔しさ」だけです。ところが、どちらも美的にあまり評価されていないので、それを見せるのも女性にとって壁となるのです。

問題が発生して、怒りで状況を解決できた女性の例はほとんどありません。ましてや、成功したとしても、それをポジティブに語るどころか、滑稽かヒステリーと言われてしまいます。女性が攻撃者を殺したり、八つ裂きにしないのは、怒りによるポジティブな結末の模範が少ないからだと言っても過言ではないでしょう。女性は怒りを破壊的だと思い込み、怒りにおびえてしまうのです。そのおびえは社会が理想とする女性にぴったりと当てはまるわけです。受け身でか弱く白馬の王子様を待つ女性像。

女性も男性と同じく怒りを感じています。ところが男性は女性と違って社会の中で怒りを表しても構わないと定義づけられているため、女性には怒りがないという神話がうまれてしまったのです。恐怖と罪悪感と同様に、怒りを二つに分けたいと思います。一つは危険な怒り、もう一つは理由のある怒りです。危険な怒りは盲目で敵もハッキリしておらず、動機も曖昧で自分に向けられる場合が多く、罪悪感や自傷行為で表現されます。理由のある怒りは目的がハッキリしているため、ハッキリ「ノー」と言え、行動も取れます。レイプされて生還者となった女性を対象にした調査によると、怒りを感じて反抗した女性の方が、恥じらいや屈辱を感じた女性よりも生還者になる確率が高かったそうです。ですから女性は怒りを自分の一部と認識し、それに誠実に反応すべきなのです。

あなたには自分を守る権利がある

感情によい悪いはありません。自然の物ですから自分の感情と向き合って下さい。

自分の直感を信じる権利がある

自分の感覚を信じている限り、自分の境界線が越えられているか否かはすぐに判断出来ます。それを直感と言います。例えば、直感的に今日は別の道を通って帰宅する、友達の車に乗るのを断る、居留守を使う。直感は残念な事に社会から女性特有の物とされがち(女の感)ですが、男女問わず誰にでもある感性です。直感は危険信号アラームのような物で、それを自由に有効に使う権利が私達にはあります。

感情を表現する権利がある

社会的・文化的な性の有り様のステレオタイプが原因で男女の感情表現は異なって理解されます。例えば、女性が自分の苛立ちを冷静に表現をしても、人によってはそれを攻撃的な態度とみなすが、同じ表現を男性がした場合すんなり問題無く受け入れられます。

怒りをあらわにすることは男性の場合、権力と見なされがちで、女性の場合は無力や自己コントロールの損失と見なされがちです。女性の苛立ちや怒りはプライベートな範囲内では極めて簡単に表現できても、公共の場ではネガティブなインパクトを考えるあまり、表現できない場合が多いのです。護身術では感情表現で人から注目され、自分が主導権を握り状況を変える役割があります。

どうすればいいか?

では、具体的にはどうすればよいのでしょうか?

ハードル位置を下げること

自分にあまり厳しくなりすぎないこと。抵抗では完璧主義的な考え方は自信喪失を招く場合があり、そうなると自分の良くない部分にフォーカスしてしまい、社会が考える女性らしさに近づいてしまいます。自分を守れるようになるには数々の障害を乗り越える必要があるので、一つをクリアする都度、それを小さな勝利だと思って下さい。もう一度言います、自分に厳しくなりすぎず、問題を一つずつクリアしていきましょう。では順番に復唱します。

  • 何かがおかしいという直感を信じる
  • 現況のリスクと解決方法を考える
  • 適切なストラテジーと材料を考える
  • そのストラテジーを実行し状況がすぐに改善されなかったら他のストラテジーに移る

弱点をカバーする

弱点とは、癒えていない過去の傷です。それはまるでスイッチのような物で、そのスイッチを押したら感情的になってしまい、自分をコントロールできなくなる物です。例えば、あなたの美貌を評価や仕事の力を評価されて、苛立ちを感じるのであれば、恐らくそれはあなたの弱点です。しかし、弱点はいつでも治療でき改善の可能性を秘めています。

例えば、数十年前ですが、私は人が私の年齢の若さについて語るとき、必ず苛立ちを感じていました。非難されていたわけではないのですが、指摘されると苛立ちを感じていました。何とかしなくてはと思い、いつからそんな風に感じるようになったか、考えて見ました。それは15歳の時、父と政治の話をしていると決まって父は私に、どちらにせよ君は若すぎて実際に働ける年齢にならない限り議論をしても無駄だ、と話を打ち切った日でした。そして私はこのように考える事にしました。父親が私の意見を尊重しなかったから私は傷ついたと。そして父親にそのことを説明しました。今では年齢のことを誰れに指摘されようと、全く気にならなくなりました。

傷がすぐに治療できるような内容ではなかったとしても、スイッチが入ってしまったときの対処法を考える事は出来ます。私の場合は、次のように自分に言い聞かせました。「年上だから経験豊富だとは限らない」例えば仕事の能力について指摘されたら、次のように自分に言い聞かせるのも一つの方法かもしれません。「私は自分の本当の価値を知っている」と言う具合に。みなさんも自分の状況や性格にあった文言を考えて下さい。

アドレナリン値を低く保つ

この癖は攻撃をされても冷静でいるのに役立ち、自分の攻撃性を緩和してくれます。失業をしそうなとき、恋人と別れたとき、引っ越しの時など、ストレスの度合いを緩和してくれます。では、アドレナリン値をどのように低く保つか?

運動、汗をかく全ての身体運動、家の掃除、散歩、ショッピング。扉をバタンと閉じる動作もアドレナリン値を下げてくれます。エレベーターではなく階段を使う、家具の位置を直す。身体的運動はアドレナリンを蒸発させてくれます。アドレナリンを燃やすには酸素も必要です。呼吸を誘発する物はストレスを半減します。様々なリラックス法で呼吸法を提案しています。ヨガ、瞑想、ストレッチングなど。呼吸法で冷静さを取り戻せます。芸術やクリエーションもアドレナリン値を蒸発させてくれます。ダンス、歌、演劇、絵画も有効です。

大体、アドレナリン値が上がると、その対象人物に対して、殺意や不運を願う物ですが、全て実現不可能なことです。消去法で自分にとって一番害のない行動を実行していくのが一般的です。

感情を使って境界線を見極める

期末テストの前はどんな気分ですか?イライラ、ストレスを感じますか?自分の状態を分析すると、アドレナリンの上昇に伴う様々な身体の変調に気付くでしょう。その感覚は境界線を越えられたときの感覚とほぼ同じです。あなたが境界線を越えられそうになった時、きつく反応したら、周りはどう思うかと心配になるかもしれません。正直良い印象は持って貰えないでしょう。なぜなら、一般論では女性は他者のために存在し、他者のために犠牲になる物だと思われているからです。

例えば、疲れ切っていて泣く赤ちゃんにすぐ駆け寄らない母親は悪い母親とされています。フルタイムで働いたが為に、身だしなみやセクシーさ、パートナーの性的要求に応えられないと、パートナーの浮気の口実になる。これに対して反論をすれば、間違いなくフェミニストと言われるでしょう。良いですか、悪く見られずに女性が境界線を引こうとすることは不可能です。女性であるが故に社会的先入観の中で、どのレベルが境界線を越えられているのかが解らなくなりがちで、攻撃がどの時点で始まっているのかもわかりにくくなりがちです。

従って、あなたが境界線を引いたり、あなたの自信に繋がる態度を誰が求めてくれるでしょう。女性全員が境界線を引くようにならない限りそれは「当たり前」にはなりません。方法は次の章で説明していきます。

危険信号

境界線を越えられると「あれ?何かおかしい」と自分で感じるはずです。それが危険信号で行動する引き金となります。

態度に見る反応
神経質な笑い方をしてしまう、目をそらしてしまう、引いてしまう、グループから離れてしまう。
精神的反応
驚き、状況説明、なんでもないと自分に言い聞かせる
感情的反応
恐怖、苛立ち、怒り、予想、シャイ、不愉快
病理的反応
動悸、胃の痛み、息苦しさ、肩や顎のこわばり、手足がつる、赤面、汗、寒気、鳥肌、口の中が渇く、など、これは一例に過ぎません。他に気付いた反応がある方はより自分を理解し始めている方で大いに結構です。

境界線は次の役割を果たします。人と自分を分ける(相手の物と自分の物の差別化)、尊敬されることの意味を知る、健全で前向きな人間関係を築く。境界線はエゴイズムではなく、人間同士の基本的な尊敬の念です。

感情の応急措置をする

絆創膏を貼るように簡単にはいきませんが、威嚇がパニックや恐怖にエスカレートしないようにすることは出来ます。自分のリアクションをコントロールするようにして下さい。感情の応急処置は次のように行います。

深く、ゆっくりとお腹で呼吸して下さい
これはどこでも実行できる方法です。誰もあなたに呼吸することを禁じることは出来ません。
身体をラクにして下さい
気持ち良ければストレスも減少しますし、過剰なアドレナリンの分泌を防げます。攻撃者の前でヨガのポーズを取るという意味ではなく、自分が安心出来る身体の体制を取るという意味です。
精神的に一歩引いて考えて下さい
手段はたくさんあります、現況のリスクを考える、30まで数える、攻撃者が弱っている状況を想像する。例えば、攻撃的な上司の場合、相手がトイレで便秘をして苦しんでいる場面を想像する。自分流のマントラを唱える。
時間稼ぎをする
数秒でも良いので現況の流れを中断する。その分ストラテジーの選択に時間をかけられます。時間稼ぎは例えば、物を落として拾う、攻撃者の質問に答える前にコップのドリンクを飲む、話す時の文章を長くする(例えば、あなたの言っていることは面白いなど)、正直に今はイライラしているから後にしてくれ、と言う、眼鏡を拭きながら、答える前に眼鏡を拭く人についてのジョークを言う。
全てを自分の責任にしない
相手の行動を自分の責任にしないで下さい。相手の動機なんてどうでも良いことなのです。
恐怖を怒りに変える
アドレナリンの上昇によるこの二つの感覚を切り替えるのは簡単です。例えば攻撃者があなたを怖がらせたら、こう考えて下さい「この男、何様のつもりなの!覚えておくがいい!」あるいは恐怖から怒りに変わるようなイメージングをして下さい。
一休みして下さい
攻撃によるアドレナリンの分泌で身体のエネルギーが硬直してしまいます。攻撃が激しければ激しいほど、落ち着いたときの反動も大きいです。異常な疲れ、極端に自分を弱く感じる、震え、涙が止まらなくなる、それはあなたの頭がおかしくなったからではありません。アドレナリンの分泌が引き起こす自然の反応です。一番良いのは時間をかけて、普通の状態に戻すことです。何もなかったかのように振る舞う必要はありません。話を聞いてくれて信用出来る人の所へ行って、自分を労って下さい。

感情を認めて表現する

感情を無視したり、押し殺しても、感情はなくなりませんし、逆に内部で蓄積され悶々とした状態になり、問題の焦点にフォーカスできなくなります。感情に支配されないためには、感情を認識し、受け入れ、それを表現するしかないのです。感情を表に出さないと、他でそれを発散するしか無くなりますが、バイタリティーが落ちます。自分の感情をしっかりと認識し、受け入れるには、このページだけでは方法を語り尽くすことは出来ません。自分の弱点を見せずに感情を表現する方法は今後紹介します。

視覚化する

先の章に続き、新しい視覚化の手段を二つ記載します。今回は感情の護身術に於けるメンタルボディービルディングの練習です。では頑張って下さい。

プロテクションバブル

ゆっくりと深く、お腹まで息を吸って下さい。幸せでとても気持ちの良かった出来事を思い出して下さい。どんなことでも構いません。とにかく幸せに満ちあふれた出来事を思い出して下さい。その時に起こった些細な出来事を全て思い出して下さい。その幸せな時に感じた身体の感覚を思い出して下さい。ドキドキしていたか?突然カーッと暑くなったか?羽のように軽い気持ちになったか?温もりのような感触だったか?その感情の根源を探って下さい。

身体のどこかに幸せという感覚の根源があります。見つけたら、手を身体が幸せを感じた位置に置き、手に幸せの熱を感じて下さい。この幸せの感触にとても綺麗な色を付けたり、光だと思って下さい。次に集中力を内部から外部に向けて下さい。あなたから腕一本分の距離に透明な膜があります。その膜はあなたを包んでいます。まるであなたを守ってくれる泡のようです。でも、あなたは自由です。膜とあなたの身体の間の空間を幸せの色、エネルギー、温もりで埋め尽くして下さい。

息を吐き出します、冬に白い息を吐くように。あなたが吐き出した息は幸せと喜びに満ちていて、完全にその息に包まれるまで何度もはき出して下さい。泡の中はあなたにとって安全な場所、誰もあなたに触ることの出来ない場所。なぜなら、人がなんと言おうと、何が起ころうとそこではあなたは善人で、幸せになる権利があり、内なる幸せを実感でき、愛に満ちているから。将来、身体が幸せを感じた位置に手を翳せば、安全なこの瞬間を思い出せるから。必要な時にバブルがあなたを守ってくれるから。現実に戻るときは、バブルの心地よい感触を残しつつ、自分の身体を意識し、ゆっくりと目を開けて下さい。

護身術の練習前、眠れないとき、凄く緊張しているときにこの視覚化を行って下さい。攻撃に遭ったときもバブルを思い出して自分が良い空気に包まれていると思って下さい。何度も視覚化の練習をして簡単な動作一つでプロテクションバブル感覚に入れるようにして下さい。

例:攻撃者が不審に思わない動作なら何でも結構です。例えば手を心臓に当てる(この動作であなたがバブルプロテクションを感じるようになるまで練習を何回も繰り返して下さい。)

恐怖を怒りに変えるには、ゆっくりとお腹で息をして下さい。リラックスして自分の身体を意識して下さい。つま先、足、腰、背中、お腹、胸、腕、手、首、頭、顔。身体を全て想像したら、自分の知っている場所を想像して下さい。

例えば、バス停、そのバス停は会社やお店の沢山並ぶ大通りに面しています。昼間は人通りも多いのだけれど、その夜あなたは珍しく遅くバス停に着き、道行く人は誰もいません。バスは行ってしまったばかりで次のバスまで20分待たなければいけません。真っ暗な雨の降る冬の夜です。時折冷たい北風が吹き付けます。あなたはバスの待合所の中で風から身を守っています。突然3人の青年が街角を曲がり、こちらに歩いてきます。レザージャケットをそれぞれ身につけています。好青年という雰囲気は漂っていません。一人の青年があなたに気付くと、二人はあなたのことを指さしながら色々と話して、こちらに近づいてきます。

あなたは不快な気分になります。狙われている、周りには誰もいない、安全な場所もどこにも見当たらない。バス待合所に一人の青年が近づき、他の二人は笑っている。恐怖感があなたを支配しますが恐怖に負けたくないと思ったあなたは、足を広げてまっすぐ立ち、深く息を吸い、近づいてくる青年の方を向き、ほほえまず彼の目を直視する。「あなたたちになんかやられてたまるものですか!」とあなたは思う。「彼らは自分たちを何様だと思っているのかしら!三人で一人の女性を冷やかして、賢く勇気があるつもりでいるのかしら!彼らはただの意気地無し、痛い目に遭わせてやるわ!」そう思うようにしてください。

男性はバス待合所に着くと、友達の方を振り向き、友人の続けろの合図と共に「お嬢さんこんばんは、寒いでしょう暖めてやろうか」という。あなたは嫌悪の目で見て、頭によぎった言葉を大声で叫ぶ「いい加減にしなさい!この国ではゆっくりバスを待つことも出来ないわけ!しかも今日はクリスマスなのよ!忙しいのだからどいて、邪魔だは!」叫ぶととても気持ち良く、強くなった気分になる。青年は驚いた顔になり、残りの友人も顔を見合わせている。

どうやら、彼らにはプランBの用意はないようだ。あなたは待機する。すると青年は吐き捨てるように「バイタ」と言って去っていく。あなたはストレス状態からリラックス状態に戻り、彼らが間違いなくいなくなったことを再確認し、早く友達にこの事件を話すのを楽しみにしつつ、バスを待ち続けます。そう、あなたは女優です。恐怖を怒りに変える演技を何度も練習して下さい。

[第6章 口頭の護身術]

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